東京・明治座での公演を皮切りに、全国8箇所で上演される舞台『巌流島』。「オファーをいただいたときはもう、びっくりでした」そう話すのは、佐々木小次郎役を演じる中村隼人さん。
「僕の大叔父である萬屋錦之介が1960年代に宮本武蔵を五部作に分けて演じているんです。だから萬屋の人間からすると、巌流島=萬屋錦之介=宮本武蔵のイメージなんです。歌舞伎界でも同じように思ってくださっている方も多く、佐々木小次郎を演じるとなったときは、“武蔵じゃないのかよ”って、冗談で言われたくらい(笑)。それくらい強い印象の舞台ですし、演じるのはその武蔵のライバル役。大変なのは覚悟しつつ、なぜ自分がこの役に選ばれたのかを考えながら受けさせていただきました」
宮本武蔵は“動”、佐々木小次郎は“静” お互いが運命の相手
今回の舞台は、誰もが知る巌流島の決闘を新解釈・新設定にて演出するオリジナルの新作舞台。隼人さんの中での小次郎像を伺うと。
「武蔵が“動”なら小次郎は“静”というイメージです。冷静な剣術指南役で、きっと門下生からも慕われていた良い上司だったんじゃないかと思います。今回の巌流島では、2人は昔からの知り合いで、お互いが運命の相手だと思っている設定。横浜流星くん演じる宮本武蔵と同じ窯の飯を食っている間に相手の強さを知り、憧れの気持ちがいつの間にかライバル視するようになり、戦ってみたいと思うまでの心の揺れがグラデーションで描かれる。そこが見所ですね」
隼人さん自身が最近、心揺さぶられたことを聞いてみると「何かあったかな…」と悩んだ上で「モモンガ!」とのお答えが。
「友達がモモンガを飼っているのですが、すごく可愛いんです。手を出すとタンスの上からぴゅーんって、飛んできてくれるんです。懐いていない僕にはまだ来てくれないのですが(笑)。友達の手に親指をぎゅっと絡めてる姿が可愛すぎて心揺さぶられました」
そんな優しい隼人さんが演じる男気あふれる佐々木小次郎。そのギャップも今回の舞台の注目ポイントになりそうだ。
「今作は、紫綬褒章を受賞されたマキノノゾミさんの脚本と、一大スペクタクルな演出をされる堤幸彦監督という素晴らしいタッグによって描かれます。“漢くさい”舞台になることは間違いありませんが、宮本武蔵と佐々木小次郎、2人の心情がここまで描かれる巌流島は今までにないと思うので、そこに注目してほしいです。あとは、流星くんとのえげつないほどの立ち回りシーンも必見です(笑)。
彼は本当に刀を当てるギリギリの距離感を極めたような人で、様式美に特化した立ち回りをしてきた僕との違いがぶつかり合う、面白い立ち回りがお見せできるんじゃないかと思っています。2人がバチバチやり合う姿を楽しみにしていてください」
Profile
1993年生まれ、東京都出身。2014年2月、歌舞伎座『寺子屋』の松王丸一子小太郎で初代中村隼人の名で初舞台を踏む。スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』のサンジ、『NARUTO』、『オグリ』では、ダブル主演も果たした。俳優としても活躍中で、ドラマ『せいせいするほど、愛してる』など、数多くの作品に出演。2023年にはBS時代劇『大富豪同心 参』の出演を控える。
『巌流島』
脚本 マキノノゾミ 演出 堤幸彦 出演 横浜流星、中村隼人、猪野広樹、荒井敦史、田村心、岐洲匠、押田岳、宇野結也、俊藤光利、横山一敏、山口馬木也、凰稀かなめ 他 東京公演 2月10日(金)〜22日(水) 会場 明治座(中央区日本橋浜町2-31-1)
PHOTO Ryuta Seki
STYLING Shuichi Ishibashi
HAIR&MAKE Yuki Kawamata (HAPP’S.)
TEXT Satoko Nemoto