山田孝之が共鳴した得太の境遇と心の傷 映画『はるヲうるひと』

話題作でのアドリブ演技やユニークなツイートが話題になることもしばしばの俳優・佐藤二朗さんが、原作・脚本・監督を務めた映画『はるヲうるひと』。

10年前に舞台での初演以降、多くのファンに愛され続けており再演もされた作品で、舞台版では佐藤さん本人が主役の得太を演じているが、今春公開となる映画版では、『勇者ヨシヒコ』シリーズでも共演した山田孝之さんにその座を明け渡している。

「寄り添ってあげたい」とオファーを受けた

持ち味は違えど、ともに日本映画界を牽引する変人。もちろんいい意味で。このふたりがタッグを組んだ作品とあらば観ないわけにはいかない!という映画ファンも多いだろう。

実際、蓋を開けてみたらそこに広がっていたのは観る者をくぎ付けにする異様な空気。演じた山田さんは、「脚本を読ませていただいたところ、登場人物みんながかわいそうだけど、なかでも得太がかわいそうだと感じました。得太を救ってあげることはできないけど、せめて寄り添ってあげたくてオファーを受けました」と告白する。

しかも、得太に酷い仕打ちをする異母兄弟の哲雄のこともやはり「かわいそう」だという。その心を尋ねると、「人に対して辛く当たることしかできないなんてかわいそうじゃないですか。なんでそんな態度しかとれないかを紐解いていくと、『愛が足りていなかったから』ということに辿り着く。

その点に関しては得太も同じで、しかも得太の場合はそのやるせなさを発散することができずに自分の中に閉じ込めてしまうことで、さらに孤独になってしまっていると思うんです」と分析。

仲里依紗さん演じる妹のいぶきの存在が支えになっていたとはいえ、「いぶきがいたからこそ、辛い現実から逃げられなかったのかもしれません」ともこぼす。

「撮影は2年前ですけど、今思い出してもやっぱり辛いです。だからこそ観る人の琴線に触れる作品だと思うし、場合によっては観た人の人生にも影響を与えることもあるかもしれない。どんな作品も、絶対に誰かのためになると思うし、そうなれば本望だけど、ただ、やっぱり辛かった」。

人が “幸せ” というものを感じるとき

山田さんがここまで「かわいそう」「辛い」の言葉を重ねるのは、得太の置かれた境遇と心の傷に共鳴しているから。

兄に虐げられながら売春宿への呼び込みを続け、悶々とした日々を送る得太の心の中は、幼いころのトラウマでいっぱいなのだ。じゃあ、得太が幸せを感じられる瞬間ってあるの? ふとよぎった疑問を山田さんにぶつけてみると、しばしの沈黙の後、「死を目の当たりにした経験がある得太にとっては、死ぬことのほうが楽かもしれないですよね…」とポツリ。

しかし続けて、「でも、美しい夕日を見たとき得太自身は美しいとは感じなくても、『この夕日を美しいと感じる誰か』に想いを馳せる一瞬だけは、救われた気持ちになるんじゃないかな」と言葉を継ぐ。

「過去もひっくるめての “現実” を生きている中で、美しいものを美しいと感じる誰かがこの世界にいることを想うとき、“幸せ”というものを感じている気がするんです」。

なんとも詩的な表現だが、根底にそこはかとない強さも感じさせられる。

「人間は弱いから、辛いことがあると誰かに助けてもらいたいと思うけど、みんな自分のことで必死だから、自分が強くなるしかないんです。将来のことや死を考えると不安になるのは当たり前。死ぬときに『いい人生だった』と思いたいのはみんな同じだし、遺された人にも悲しんでほしくないですよね。そのためにも、先のことを想像して気に病むことをやめて、一緒に毎日を精一杯生きていきましょう」。

山田孝之
1983年生まれ。1999年、俳優デビュー。以降、ドラマ「WATER BOYS」、「世界の中 心で、愛をさけぶ」など、多くの作品に出演。2005年に映画「電車男」で主演を務める。2007年「クローズZERO」で第50回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。以降、ドラマ・映画「闇金ウシジマくん」シリーズなど、多くの作品で主演を務める。

TEXT Reiko Matsumoto
PHOTO Ryuta Seki
STYLING KURUMI(Rooster)
HAIR&MAKE Toh(Rooster)

「はるヲうるひと」

原作・脚本・監督 佐藤二朗
出演 山田孝之、仲里依紗、今藤洋子、笹野鈴々音、駒林怜、太田善也、向井理、坂井真紀、佐藤二朗 他
公開 6月4日(金)全国ロードショー

この記事を書いたのは
Poco'ce

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