父の死をきっかけに久々に顔を合わせた姉弟は、父の再婚相手とその連れ子との4人で思い出の料理を囲みながら在りし日を振り返る―。
『最初の晩餐』で姉弟を演じた戸田恵梨香さんと染谷将太さんに作品や「家族」に対する想いを語ってもらった。
家族とは何であろうか? ある人にとっては「頼れる味方」だとしても、また別のある人にとっては「疎ましい存在」ということもあるだろう。自分と似た部分が垣間見えるからこそ憎しみが生まれることもあれど、「赦す」という感情を教えてくれるのもまた家族かもしれない。
11月1日公開の『最初の晩餐』は、自分にとっての「家族」に思いを巡らす大きなきっかけとなりえる映画である。物語の中核を担うのは、異母兄弟であるシュン(窪塚洋介)の弟・麟太郎と妹・美也子を演じる染谷将太さんと戸田恵梨香さん。同作に携わったことは、ふたりの胸中にどのような想いをもたらしたのか?ご本人たちに話を伺った。
「家族ってこうだよね」の説教臭さがない正直な映画だと思う
ーー撮影に入る3年前、誰よりも早くこの映画への出演に手を挙げたのが染谷さんだったとお伺いしました。作品のどんなところに魅了されたのですか?
染谷 台本を読ませていただいたところ、家族について語っているけど全然説教臭くなくて、「家族ってこういうものだよね」とも「家族って大切だよね」とも言っていなく、この作品における家族像は曖昧だったんです。だけど一方で、すごく固くて強いものでつながっている家族であることも感じられました。それがなぜなのかはわからない。だけど、「わからなくてもいい」と思えました。説明がないということは、ある意味乱暴なんですけど、本当に正直な映画だと思えたんです。そのことをすごく魅力的だと感じました。
ーー両親を永瀬正敏さんと斉藤由貴さん、3兄弟を窪塚洋介さんとおふたりが演じられることで独特の空気感が生まれていますが、現場はどんな雰囲気でしたか?
染谷 本読みの時に初めて全員そろったとき、おもしろい家族だなと思ったことは印象に残っています。みなさんがただしゃべるだけでドラマになりそうだと感じました。
戸田 一人ひとりのパワーが強すぎて、オーバーしてるんじゃないかってくらい。みなさんパワーを抜いて、抜いて、抜いて、演技されていて、まあそうだよな、って(笑)。本当に吸引力強めな家族でした。
ーー印象に残っているシーンは?
染谷 どのシーンがというよりは、子役が演じた過去パートと、自分たちが演じた現代パートがつながったものを初めて観たときに、ぐっときました。永瀬さんと斉藤さん、そして子どもたちが創り出している世界観が、強さも脆さも併せ持っていてなんとも言えない気持ちになりました。
戸田 わたしも、ひとつの家族の物語なのに、ふたつの作品を観ているような感覚を覚えました。継母であるアキコを演じる斉藤さんの醸し出す空気感が、過去と現代をすーっとつないできたんだなとも感じましたし。斉藤さんとのシーンで印象に残っているのが、お通夜の最中に、わたしたちふたりと一緒に抜け出して3人で会話するシーンなんですけど、あのシーンの撮影では今まで味わったことのないような不思議な感情が芽生えました。継母であるアキコとわたしたちの間には距離があるように思えるんですけど、本当はふたりともめちゃくちゃ甘えてきたんだなっていうことが役を通して感じられたというか。ああ、これが家族なのかなと思いました。
染谷 僕はあのシーンは「居方」がすごく難しかったですね。おふたかたとも一歩踏み出す場面なんですが、自分は踏み出しきれない。正直、どうしたらいいか悩んだシーンでした。でも、悩んだままやったことが結果的によかったのかなと思っています。基本的に全編を通して、ラストカット以外は常に悩んでいたり不安だったりする役でもあるので、ラストカットで、「それでいいんだよ」って言ってもらえたような気がします。とはいえこの映画は、すべてがつながったり丸く収まったりするのをよしとするというわけでもないので、あくまでも自分の中での感覚ですけど。
家族の死をきっかけに人生における「光」を見つけたいと思うように
ーー父親の死をきっかけに、兄弟たちそれぞれが「家族とは?」に思いを巡らせていくストーリーですが、実生活でも、後から振り返ったらあのときのあれは自分の転換期になっていたなと感じる出来事はありますか?
戸田 家族のことを考えるきっかけとなった出来事といえば、父方の祖父が亡くなったときのことを思い出します。偶然なんですけど、兄と示し合わせて実家に帰ったその日に、「今着いたんだけど」って連絡したら「たった今おじいちゃんが亡くなった」って言われたんです。本当に突然のことだったので、立ち会えたのはすごく運がよかったですし、兄とふたりで「引き寄せられたのかな」と話しながら、家族にはそういう不思議な結びつきがあるのかもしれないなと感じました。それまで目に見えないものを特別に信じているというわけではなかったのですが、あの出来事があったときから、生きている意味や人との縁を感じられるような、光を見つけたいなと思えるようになりました。
ーー兄弟を演じるにあたっての関係づくりにおいて意識されたことはありますか?
染谷 戸田さんはすごくお姉さん感が出ているので、僕がそこに甘えられたら兄弟として成立すると思ったので、甘えるようにしてました。
戸田 わたしは、特別意識はしていなかったのですが、窪塚さんからは、薬をくれるお姉さん、“恵梨香薬局”だって言われていました(笑)。
染谷 たしか、自分がブヨに刺されたときに塗り薬をいただいた気がする。あと、いろんなサプリを持っていて「これ飲んだら体調よくなりますよ」って、わけてくださるんですよ。
戸田 色々持ってましたね(笑)。
ーー美也子、麟太郎とご自身との共通点はありますか?
戸田 あまりないですね。わたしは美也子のように愛情に飢えてもいなかったし、すごく愛情を注いで育ててもらったと思うので。
染谷 麟太郎の受け身な性格は、自分にも当てはまりますね。僕も、人からの言葉をいっぱい受けて自分の考えをまとめていくタイプなので。今回の現場でもみなさんの芝居に大きく動かされましたし、監督ともたくさん話し合ったことが、ラストの麟太郎につながっていると思います。
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簡単に嫌いになることも大好きになることもできるけどやっぱり支え続けたい
ーーおふたりの実の家族についてもお伺いしたいのですが、おふたりにとって「家族」とはどんな存在ですか?
染谷 帰る場所でもありますけど、「外に対して背中を押してくれる存在」でもあると思っています。
戸田 わたしは家族からは、すごく愛情を注いでもらってきました。日々の何気ないメールのやりとりからも、「愛されてるな」と感じますし、「守られてるな」とも思います。だけど同時に、こちらが守らなければならない存在でもあると思います。
ーー戸田さんは過去に、「大人になってから、自分が知らなった親の一面が見えたことがある」と明かされてい ましたが、年を重ねる中で、家族のこれまで知らなかった部分が見えてくることは、自分の人生にどんな影響を与えていると思いますか?
戸田 自分でも気づかないうちに、親に対して夢や理想を抱いていて、でもお父さんもお母さんも人なんだよな、っていうのがわかったことで、強くなりますね。知らなかった一面を知ったことで、簡単に嫌いになることもできるし、大好きになることもできるけど、やっぱり支え続けたいと思えるのが家族なんだなって、改めて思います。わたしは16歳から東京に出てきているので、早いうちに両親と離れた分、親の人柄についてあまり知らなかったというところはあると思いますが、若いころから、親に対する感謝の気持ちやありがたみはずっと変わっていません。
ーー最後に、おふたりにとって理想の家族像、自分は家族にとってどういう存在でいたいかを教えてください。
染谷 自分だけじゃ家族というものは成立しない、みんなあっての家族なので、自分がどうとかはないです けど、家族という大きな塊の中のワンピースでいたいですね。具体的に求めるものがなくてもつながっているのが家族だと思っています。
戸田 結婚したら、子どもはもちろん大切で守り抜く存在になると思いますけど、いつまでも「旦那さんが 一番」と思えるのが理想です。パートナーである人に一番愛情を注いで、大切にしていけたらいいなと思って います。
TEXT / Reiko Matsumoto
PHOTO / Hirohiko Eguchi(LinX)[Shota Sometani]
STYLING / Naomi Shimizu
HAIR&MAKE / AMANO[Erika Toda]
STYLING / Yoko Kageyama(eight peace)
HAIR&MAKE / Haruka Tazaki
戸田恵梨香/1988年生まれ。ドラマで注目を浴び、『デスノート』2部作で映画デビュー。『ライアーゲーム』『SPEC』『コード・ブルー―ドクターヘリ緊急救命―』などのシリーズでも活躍。2019年後期のNHK連続テレビ小説『スカーレット』のヒロインも務めている。
染谷将太/1992年生まれ。2009年、『パンドラの匣』で映画初主演。2011年、主演を務めた『ヒミズ』で第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。2020年NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では織田信長役に決定している
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「最初の晩餐」
監督・脚本・編集/常盤司郎
出演/染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏/森七菜、楽駆 他
公開/11月1日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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