三谷幸喜氏が脚本と監督を務める映画「スオミの話をしよう」が公開される。5年ぶりとなる最新作にして最高傑作といわれる本作は、ある日突然姿を消した「スオミ」と彼女を取り巻く5人の男たちを描いた三谷ワールド全開のミステリー・コメディ。主役「スオミ」を演じるのは、三谷監督とは映画で初タッグとなる長澤まさみさん。「観終わった後は笑顔で映画館を出られるような素敵な作品」と語る彼女に作品の魅力、見どころを伺った。
想像以上だった、松坂桃李さん演じる独特な間
「三谷監督の作品に出演したいと思う俳優さんはたくさんいらっしゃって、常に順番待ちをしているような状態です。そんな中、お声をかけていただいたのはとても光栄でした」
これまで三谷作品のドラマや舞台への出演はあったものの、映画出演はこれが初めてとなる長澤さん。今作で主演のオファーが来たときの心境をそう教えてくれた。撮影を振り返り、あらためて感じた三谷作品の魅力を伺うと。
「三谷監督は俳優の色々な可能性を引き出してくださる方。どんな役にしたらこの俳優が輝けるのかを1番に考えてキャラクターを作ってくださって、それぞれの役にちゃんとスポットが当たるように考えられているんです。この作品もスオミが主役という立場だけれど、彼女をとり巻く人たちの物語でもあるので、全員が主役と言ってもいいくらいに輝いています。そこがやっぱり三谷作品ならではですし、すごいところだなと思いました」
スオミを取り囲むのは、彼女を愛した年齢も職業も異なる5人の男性たち。スオミの失踪を聞き、現夫である大富豪の豪邸へ集まるのだが、彼らが語る思い出の中のスオミは見た目も性格も異なっていて…。“彼女はどこへ消えたのか?スオミとは一体、何者なのか?”を軸に物語は進んでいく。
「スオミの七変化もそうですが、5人の男性陣のシーンに注目してほしいです。私も台本を読んだときからあの個性的なキャラクターたちがどんな風に描かれるのだろうと楽しみにしていたのですが、出来上がった映像は想像以上でした(笑)。例えば、遠藤憲一さんが演じたスオミの初めての旦那“魚山”のどこか抜けている感じとか、2番目の夫、松坂桃李さんが演じた“十勝”の独特な笑いの間とか。それぞれのキャラクターの良さや愛らしさが随所に散りばめられているんです。それだけではなくて、西島秀俊さんが演じた4番目の夫“草野”はスオミの前ではとっても細かい人間なのに、男たちの中ではとっても大らかに笑っていたりして。そんな新しい驚きと発見が全部面白さに繋がっていくのは、三谷監督の作品ならではだと思います」
作品のラストに出てくるミュージカルシーンも必見。これは“作品を最後まで楽しんでほしい”という、三谷監督の想いから急遽追加されたというから驚いた。
「撮影と同時進行でミュージカルのお稽古をしました。これがより一層、映画なのに舞台劇のような感じに仕上がっていてお気に入りです。観てくださる人を最後の最後まで飽きさせないと思います」
撮影前には1カ月という舞台さながらの長い稽古時間が設けられたそう。
「芝居に没頭しているというか、芝居づけの日々という感じでとても良い環境でした。もちろん、その場の瞬発力でパッとやるというのも良いのですが、やっぱり時間をかけて良いものを作りたいという想いは、私だけでなく周りの俳優さんにもありますし、それが叶った今回の現場はとてもありがたかったです」
コメディやアクション、社会派の作品まで次々と新境地を開拓し、今や日本を代表する女優となった長澤さん。来年はデビュー25周年のアニバーサリーイヤーを迎える。
「あまり何年やっているとか自覚がないですね(笑)。何年経ったらこんな役を演じたいとかもないですし、きっとそこに執着がないのかもしれません。俳優の仕事とひとことで言っても、舞台のお芝居、映画のお芝居、ドラマのお芝居…と、その中でも細分化されていますし、求められるキャラクターや芝居も作品によって全然違います。ひとつとして同じものがないので、今までやってきた術で同じことをやれば良いというものがないんです。なので、すごく難しい仕事ではあるけれど、その分やりがいが大きいというのは常々感じています」
お仕事をする上で大事にしていることを伺うと「自分らしさ」とのお答えが。
「自分らしさって難しいですよね。でもやっぱり自分を自由にしてあげることかなと。何がしたい、どうなりたいという自分への問いかけに自分自身がちゃんと耳を傾けてあげることが必要なんじゃないかと思います。自分と向き合うことができるのは自分だけなので、その時間はこれからも大切にしたいと思っています」
『スオミの話をしよう』
監督・脚本 三谷幸喜 出演 長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、阿南健治、梶原善、宮澤エマ他 公開 9月13日(金)全国ロードショー
長澤まさみさん
1987年生まれ。2000年に第5回「東宝シンデレラ」オーディションにてグランプリを受賞。同年に映画『クロスファイア』でデビュー。2004年には映画『世界の中心で、愛をさけぶ』で第28回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・話題賞など数々の賞を受賞し、その後もドラマ・映画・舞台と幅広く活躍。昨今の出演作は、映画『散歩する侵略者』、ドラマ・映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ、ミュージカル『キャバレー』、舞台『正三角関係』など。三谷幸喜作品出演作には舞台「紫式部ダイアリー」ドラマ「わが家の歴史」「真田丸」などがある。
Photo / Ryuta Seki Styling / Ryota Yamada Hair&Make / Mikako Takamura Text / Satoko Nemoto