日本公演3回目となるミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』。今回、鶴見さんは初めてお父さん役として出演する。
「これから稽古が始まるところですが、今はただただ楽しいのひとことです。演者が集まってどうしたらもっと面白くできるだろうと、仮説を立てて試している段階。みんなであれこれ妄想を働かせながら、ああしよう、こうしようって作品を作り上げていくところです。例えるなら、お家を買って家具をどう配置しようか、カーテンは何色にしようかと考えている感じ。ね、ワクワクするでしょう?」
オーディションでお父さん役が決まった鶴見さん。この作品への想いを伺うと「話したいことが多過ぎて止まらなくなっちゃう」と笑った。
「この作品は、バレエダンサーという夢を追う少年、ビリーだけの物語ではないんです。ビリーを巡る大人たちの胸の内や、階級差や地域コミュニティの話。さらに、時代の流れや政治といった、私たちの人生を取り巻くすべての要素が入っていて、年齢や性別を超えたところで人間というものが描かれています。そこにしっかりとした説得力があるからこそ、誰もが共感できる作品なのだと思いますし、感動を呼ぶのだと思います」
「もちろん楽曲も素晴らしい!」と鶴見さんは続ける。
「本作は、全楽曲をエルトン・ジョンが作っているのですが、本当に素晴らしいですね。メロディーで語られるストーリーがとてもよくできているんです。例えば、僕と長男のトニー(ビリーの兄)が意見を戦わせる場面。ビリーの姿に心動かされ、オーディションを受けさせるお金のために仲間を裏切り、スト破り(scab)をしようとするんですが、トニーは猛反対する。自分と同じ道を歩いてきたトニーと、新しい道へ進もうとしているビリー。父親からすれば二人の子供への愛情に差などないのだけど「ビリーには可能性があるかもしれない」と伝えられたトニーは複雑ですよね。その気持ちが複雑な旋律、あえて同調しないキーで表現されているんです。これこそミュージカルの醍醐味ですし、この作品はそのミュージカルの中でも最高峰だと思います。言語がわからなくても、作品の内容を知らなくても圧倒されて涙が出る。そんな場面がこの作品にはいくつも散りばめられているんです」
ビリーを演じる4人の少年について伺うと。
「僕がデビューしたのがこの子たちと同じくらいの歳。その時はセリフを話すので精一杯だったのに、今のビリーたちは踊って歌ってバック転までするんですから驚きました。この40年の間に日本の芸能界のレベルがこんなにも上がったということなんですよね。まだビリー役の子たちとは1度しかお会いしていませんが、これから稽古を通して関係性を構築していくのが楽しみです。役柄では父と息子ですが、舞台上ではプロフェッショナル同士。お互いに切磋琢磨して良いものを作っていきたいと思っています」
やりたいことが見つからない人に向けたアドバイス
バレエを踊っているときだけは辛いことも忘れられるビリーにちなみ、鶴見さんが無我夢中になれることを伺うと。
「僕も日本舞踊を20年ほどやっているので踊っているときだけは無になれるビリーの気持ちはわかる気がします。踊りに集中しているとその瞬間だけは嫌なことも忘れて没頭できるんです。あとは…、ゴルフかな(笑)。先日もゴルフ仲間とプレーしたときにふと“俺たち、ゴルフがなくなっちゃったら何を楽しみに生きていけばいいんだ”って話をしていました(笑)」
夢中になれるものが見つからないという人にアドバイスをいただくと「大事な人を思い浮かべてみて」と鶴見さん。
「先程のゴルフ仲間との会話に繋がるのですが、友人はとてもピアノが上手な人なんです。だからゴルフができなくなったらピアノをやればいいよ、と。でもただ練習してもきっとモチベーションが上がらないと思うから孫の誕生日に弾いてあげたいとか目標があればやれるんじゃないかって話をしたんですよね。なので、何もやりたいことが見つからないという人は家族や友人、大事な人のことを思い浮かべてみたらどうでしょう?音楽でもスポーツでも仕事でも、何かしら“大事な人”のためにやってみたいというものが見つかるかもしれません」
「本作はそんな大切な人たちと観てほしい作品」と鶴見さんは続ける。「大事な人たちと何か思い出に残ることをしたいというとき、旅行とかお食事に行くとか色々方法はあると思うんですが、ぜひ『ビリー・エリオット』を観てほしいです。誰がどの視点で観るかによって感想も変わってくると思うので、観終わった後に意見交換をしてもらえたら嬉しいですね。必ず心にメモリアルな瞬間として刻んでいただける作品だと思っていますので、楽しみにしていてください」
『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』DaiwaHousepresents ミュージカル
脚本・歌詞 リー・ホール 演出 スティーヴン・ダルドリー 音楽 エルトン・ジョン 出演 ビリー・エリオット(クワトロキャスト)浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一お父さん(ダブルキャスト)益岡徹、鶴見辰吾ウィルキンソン先生(ダブルキャスト)安蘭けい、濱田めぐみ他 公演 7月27日(土)~10月26日(土) 会場 東京建物BrilliaHALL(豊島区立芸術文化劇場)※大阪公演あり
鶴見辰吾
1964年、東京都生まれ。テレビ朝日ドラマ「竹の子すくすく」で芸能界デビュー。以後、TBS「3年B組金八先生」や、BS時代劇「新撰組血風録」、大河ドラマ「義経」、「軍師官兵衛」など、さまざまなドラマで活躍。映画でも『極道兵器』、『翔んだカップル』、『鮫肌男と桃尻女』ほか、出演作を多く持ち、舞台、ミュージカルでも活躍。
衣装 ジャケット、パンツ(イレブンティ)、シャツ(パイカジ)
PHOTO IsamuEbisawa STYLIST KazuoIjima(Balance) TEXT SatokoNemoto