TVドラマ『俺の話は長い』に続き、映画『私はいったい、何と闘っているのか』で夫婦を演じた安田顕さんと小池栄子さん。
ドラマファンからは、「またふたりの夫婦役を観られるなんて!」との声が聴こえ、ふたりの夫婦役を見たことがない人からの期待値も高い。
おふたりに、お互いの印象や夫婦の在り方についてを伺いました。
小池栄子に「独房の土人形みたい!」と言われ…
主人公は、町民たちに愛されるスーパーの主任。愛情深い家族に恵まれ、平凡ながらも幸せそうに見える中年男だが、頭のなかはいつも、心穏やかではいられない妄想でいっぱい。タイトル通り、“私はいったい、何と闘っているのか” 状態なのだ。ゆえに、空回りがお約束。だけど、どんな失敗をしでかしても、どんなにかっこ悪くても、妻はそっと手を差し伸べ、やさしく見守るばかり。そんななんとも尊い関係性の夫婦を演じた、安田顕さんと、小池栄子さんに、お話を伺った。
― 2度目の夫婦役ということで息もぴったりでしたが、おふたりはお互いにどんな印象を抱いていたのか教えてください。
安田「第一に人間性が好きです。気さくでユーモアがある方なので、他の人に言われたら腹が立つかもしれないことも、小池さんに言われたら涙が出るくらい笑っちゃう。僕の姿を見て、“独房にいる土人形みたい!” と言われたことがあるのですが、言い得て妙だなぁと、大笑いしてしまいました。」
小池「ありましたねー(笑)広い心で受け止めてくださる方なので。一緒にいるときに無理してしゃべらなければ気まずいなと感じる人っていますよね?現場で “今日は時間が長く感じる” と思わせる人というか…。安田さんにはそれが全然なくて、無理して会話をしなくても、なんとなく居心地のいい空気を作ってくれるのでありがたいです。」
― 今回、久しぶりの共演でしたが、いかがでしたか?
安田「ト書きに“笑う”と書いてあったら、その心情に自分をもっていけるよう意識しますが、小池さんとなら、笑うことを意識する必要がないんです。陰でどういう努力をしてきたのか、どういう人生送ってきたのかは知りませんけど、彼女を見て演じていると、自然と泣けるし、自然と微笑ましくなる。しかも、こちらを晒す必要もないですし、ケラケラと笑って毒づいているくらいがちょうどいいんです。その状態で、“用意スタート”がかかったらセリフを発したらいいだけで。
小池「安田さんも私生活の話とかを自分からされないので、現場で観察しながら勝手に想像してるのが楽しいです。たとえば、“なんだか難しい顔してるけど、単にお腹すいてるだけなんだろうな…”とか(笑)。」
― 一緒にお芝居をするのも楽しいでしょうね。
小池「楽しいです。心躍ります。安田さんを見ていると、“人間ってこんなにも感情豊かなんだ!”と思えますし、“もっと自由でいいんだ!”と思えます。経験を重ねていくと、“こういうときはこういうお芝居だろう”という固定観念を持ちそうになる自分がいるんですけど、安田さんとのお芝居は、演技の幅が無限に広がるように思えるんです。毎回決まったお芝居をする方がいる一方、安田さんがお相手だと、私がどんなお芝居をしようと成立してしまう。だから、やっていておもしろいんです。」
安田「小池さん自身、楽しんでらっしゃいますよね。」
自己肯定は大事 今ある幸せに目を向けて
― それと、お互いが演じた春男、律子の印象についても教えてださい。
安田「律子は、年齢を重ねた美しさを携えている人ですね。結婚はゴールではないですし、その後どう生きていくかが大事だと思うんですけど、本当に魅力的に成長している女性だと思います。脚本にも、老いることの美しさが描かれていますし、夫婦として成長していく姿をちゃんと追ってくれている作品なんです。」
小池「春男のことは、愛らしいな、愛おしいな、と思いました。あんなに一生懸命、誠実に生きている人ってなかなかいないと思います。大人になるとどこかずる賢かったり、ラクをしようとしたりするけれど、情けない背中を見せられる春男は隙の塊。私、華々しいときに引退するスポーツ選手も好きですけど、年を取ってボロボロになって戦えない姿を見せてくれるプロレスラーがすごく好きなんです。春男にもそういうところがあって、こんなパートナーとならずっと一緒にいたいなと思えました。」
― タイトル通り、いつも何かと闘っていた春男が、後半には本当に大切なことや、今ここにある幸せに目を向け始めますね。
安田「毎日を積み重ねていく中では、他人の芝が青く見えることもあるけれど、ちょっと見方を変えるだけで、自分の幸せに気づけたりするものです。それに、誰の人生にも、見方によってはドラマチックなことが起きていると思うんです。自己肯定は大事です。恋愛のことや家族のことなど、悩みが尽きないと感じている人もいるかもしれないけれど、“そんなに悲観的にならなくても大丈夫だよ”、“無理しなくていいんだよ” って言葉をかけてあげたいですね。」
Ken Yasuda
演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。音楽にも造詣が深く、北海道では、音楽番組のナレーションを放送開始から15年担当。雑誌ではアーティストとの対談連載ページを持ち、実父とのやりとりを綴った『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』も発刊。思いの丈を柔らかい文章で表現している。近年は映画・ドラマ・舞台など、数々の話題作に出演、硬派な役から個性的な役まで幅広く演じている。
Eiko Koike
主演映画『接吻』で毎日映画コンクール女優主演賞、ヨコハマ映画祭主演女優賞、高崎映画祭最優秀主演女優賞などを受賞。成島監督作品『八日目の蝉』では、キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞、日本アカデミー賞優秀助演女優賞などを受賞。近年では、映画『地獄の花園』、『いのちの停車場』などに出演。映画、舞台、TV、CMと幅広く活躍中。
『私はいったい、何と闘っているのか』
(C)2021 つぶやきシロー・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会原作 つぶやきシロー「私はいったい、何と闘っているのか」(小学館刊)
監督 李 闘士男
脚本 坪田文
出演 安田顕、小池栄子、岡田結実、ファーストサマーウイカ、SWAY(劇団EXILE)、金子大地 他
公開 12月17日(金)全国ロードショー
PHOTO Hirohiko Eguchi(Linx.)
TEXT Reiko Matsumoto
Ken Yasuda:STYLING Toshihiro Muratome (Yolken) HAIR&MAKE Tatsuya Nishioka (Leinwand)
Eiko Koike:STYLING Mariko Enami HAIR&MAKE Koichi Yamaguchi (SLANG)